ルール妄信はルールの意義を損ねる:ルールの目的を考えよう
※最初の方は私が気づくきっかけとなった科学的話題のため、難しいと感じた方は読み飛ばして下の方から読んでください。
何故そのルールはあるのか?
医薬品の品質保証関連では、試験法のばらつきの範囲として3SDや5SDといった値が使われます。
同じサンプルに同じ試験をしても全く同じ値を出す試験系を構築するのは難しい(機器、人、手法、環境など複数のブレの要因があり、最小限にしてもある程度は残ってしまう)ため、この3SD等を基準にしてサンプルの変動かどうかを判断する軸にしているということです。この場合は、3SDを外れると本当にサンプルが変動しているのかの調査が実施されます。
SDは統計で出てくる標準偏差Standard Deviationで、同じサンプルを測定した場合、平均値から1SD内に約67%、2SD内に約95%、3SD内に約99.7%の値が含まれることになります。つまり、3SDで判断していることの意味は、3SDの外の値=出現確率が約0.3%の事象が起きたら、「サンプルに何か変化が起きているか調べないといけないんじゃないの?」という疑問を持てというガイダンスがルールに組み込まれていることになります。

ルール内だったら良いのか?
では、ルール内だったら何でもよいのでしょうか?実は、そんなことないんです・・・。
例えば、2回試験をした時に以下の2つのケースを考えてみましょう
- 最低1回は3SD外が出た
- 2つの試験結果が2SD外となった
①の確率は、全体の確率から2回とも3SD内(99.7%)となる確率を引けばよいですね。
①の確率=1-0.997×0.997=0.005991≒0.6%
②の確率は、2SD外となる確率(5%)を2回掛ければよいですね。
②の確率=0.05×0.05=0.0025=0.25%
つまり、2SD外の結果が2連続した方が、3SD外の結果が1回出るよりも半分以下の出現率であることになります。しかし、ルールだけを妄信すると、②のケースは調査対象外になってしまいます。
「出現率0.3%の稀な事象が1回でも起きたら調べましょう」がルールなのに、それよりも珍しい事象が起きたのに調査をしないのはおかしいですよね。こういった、ルールの背景にある科学的理解も勘案しながら、必要な対応を議論・指示するのが、品質保証の仕事です。
日常生活でも「ルールの本質」を考えるのは有効
上記は医薬品の品質保証からの例ですが、日常生活でも「ルールの本質」を考えるのは大事です。
例えば、一時停止の停止線はどうしてそこにあるのかを考えてみたことはありますか?
よく見かけるのは、細い道と太い道の交差点で、太い道に沿って横断歩道があり、細い道から来た場合にその横断歩道の前に一時停止の標識と停止線がある場合です。
この場合、停止線は何に注意しろと言っているのでしょうか?歩行者に注意しろ、ですよね(太い道を通っている車や、太い道から曲がってくる車に注意という意味もありますが。基本、太い道から車が曲がってきてもすれ違える位置に停止線があります)
停止線を無視して横断歩道を過ぎたところで太い道に入れるかタイミングを図るために停止する人がいますが、こうした人は停止線がなぜそこにあるのか全く理解できていないわけです。つまり、何を防ぐ/起こさないために行動すればよいのかを理解できていないのです(この場合は歩行者の保護が最優先ということがわかる)。
大体の場合事故は起こらないのですが、どこの場所でもこうした対応をしていると、「何のためにそれがそこにあるのか」が分からず、事故を起こしたり巻き込まれることになります。飛び出しがあった時でも、停止線で停止していれば車のスピードは遅く、反応が間に合って事故を回避したり、事故になったとしても衝撃が小さく大事故にはつながりにくいはずです。細かいところでは、停止線を過ぎて止まったために、右左折車が曲がり切れず交通を妨げることもあります。
ルールには必ず背景がある:想像力と理解力を高めよう
何も考えずにルールができることはあるでしょうか?無いですよね?家庭内のルールでも、個人のルールでも、社会的ルールでもそれは同じことです(そのルールに意味があるかどうかは考える必要があるかもしれません。品質保証では科学と合理性が意味を考える上で重要です)
であれば、ルールの本質を考えて、このルールが存在する環境でどう振舞うべきかを考えることは非常に重要だということになります。状況によっては「ルールを厳守すること」ではなく、「ルールの本質に沿った行動をすること」の方が大事かもしれません(停止線を守ること自体は大事ですが、それよりも停止線の本質からすると歩行者を巻き込む事故の防止が優先でしょう)
ルールの本質を見極める手がかりは、以下のようなものがあります。
- 俯瞰的に考える:関係者の立場や状況を捉える
- ルールがなかった場合のリスクを考える
- その状況で起こって欲しくないことをリスク順に考える
- そこで昔起こった(かもしれない)ことを考えてみる
実はあなたにとっても、生き方のルールは確実にあります。「こういうのはしたい/したくない」「これは感謝に値することだ」「○○に対しては自分は寛容/勘弁ならない」、など。
こうした自分の生き方のルールを時に振り返り深堀してみると、自分が大切にしている価値観が見え、「その価値観ならそういった選択でなくてもよいかもしれない」「こういう行動をしなくてはいけなかった」というところまで見えるかもしれません。
読者の皆様も、是非周りにあるルールの本質を考える習慣を身に着けてみてください!
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